仏像に宿る祈りを守る──加賀市での文化財レスキュー

能登半島地震から一年以上が経ち、国による文化財レスキュー事業は今も静かに、しかし確かな歩みを続けています。

 

これまで表に出ることのなかった地域でも、仏像の応急処置が始まりました。

 

 

今回の現場は加賀市。地理的には能登半島ではありませんが、仏像の被害は決して軽くはなく、先人の仏師が魂を込めて彫り上げた尊像が数多く傷ついていました。

 

 

応急処置では、将来の本格修理を見据え、後で剥がせるよう膠(にかわ)を使用します。膠は濃度や温度管理が難しく、状況に応じた調整が求められます。まだまだ学びの余地がある技法ですが、仏像にとって最も優しい素材のひとつです。

 

膠を使った接着作業の様子。

 

 

今回の加賀市での活動は、同市初の仏像文化財レスキューということもあり、6社ものメディアが取材に訪れました。文化財への関心の高まりを肌で感じる瞬間でした。

 

驚きと感動を覚えたのは、すべての仏像に「玉眼(ぎょくがん)」が施されていたこと。これは仏像の内部に水晶やガラスを嵌め込む技法で、仏の眼差しに命を吹き込むような、精緻で神秘的な技術です。

 

玉眼の構造。仏像の内側から嵌め込む様子は、まるで仮面のよう。

 

 

当工房では玉眼の解説動画も公開していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

 

こうして、先人の仏師が彫り出した力作に触れ、応急処置を施すことができるのは、何よりありがたいことです。仏像に込められた祈りと美を未来へつなぐために──。

 

次回もこの活動の続報をお届けします。よろしければご覧ください。