2025年
9月
02日
火
祈りのかたちを、もう一度 加賀市 仏像応急処置活動

能登半島地震により甚大な被害を受けた仏像の数々——その救出と修復にあたり、全国各地から温かなご支援を賜りました。心より御礼申し上げます。
破損していた仏像も、三乗堂の森崎様との協力のもと、残すは台座のみというところまで漕ぎつけました。今回は一人で、最後の台座の応急処置にあたりました。

2体分の台座の応急処置をしていきます。

膠での接着作業

本体のホコリや汚れを取り台座へ

すべての作業を終えた今、胸を撫で下ろすとともに、関係者の皆様からも安堵と喜びの声をいただきました。
2025年
8月
27日
水
能登半島地震とレスキュー文化財展


被災地から救出された仏像や絵画、民具の数々には、土や水の痕跡が残りながらも、確かにそこに「祈り」や「記憶」が息づいていました。
それら一つひとつに、学芸員の方々の丁寧な言葉が添えられていて、展示空間にはいつもとは異なる静かな緊張感が漂い、自然と足が止まり、心が深く沈潜していくような時間となりました。

文化財とは、ただの「もの」ではなく、人々の願いや暮らし、時代の声を宿した存在なのだと、改めて感じさせられます。
この展示は、文化財を「守る」という行為が、いかに人の営みと深く結びついているかを教えてくれる貴重な機会でした。


金沢市近郊の皆さま、もしご都合が合えば、ぜひ足を運んでみてください。
静かに語りかけてくる展示品たちが、きっと何かを残してくれると思います。
今月も、私たちの工房では文化財レスキュー活動の予定が入っております。
微力ながら、守り継ぐ手のひらの一つとして、心を込めて取り組んでまいります。
祈りのかたちが、次の世代へと静かに手渡されていくように。
2025年
8月
18日
月
仏像に宿る祈りを守る──加賀市での文化財レスキュー

能登半島地震から一年以上が経ち、国による文化財レスキュー事業は今も静かに、しかし確かな歩みを続けています。
これまで表に出ることのなかった地域でも、仏像の応急処置が始まりました。

今回の現場は加賀市。地理的には能登半島ではありませんが、仏像の被害は決して軽くはなく、先人の仏師が魂を込めて彫り上げた尊像が数多く傷ついていました。

応急処置では、将来の本格修理を見据え、後で剥がせるよう膠(にかわ)を使用します。膠は濃度や温度管理が難しく、状況に応じた調整が求められます。まだまだ学びの余地がある技法ですが、仏像にとって最も優しい素材のひとつです。
膠を使った接着作業の様子。

今回の加賀市での活動は、同市初の仏像文化財レスキューということもあり、6社ものメディアが取材に訪れました。文化財への関心の高まりを肌で感じる瞬間でした。
驚きと感動を覚えたのは、すべての仏像に「玉眼(ぎょくがん)」が施されていたこと。これは仏像の内部に水晶やガラスを嵌め込む技法で、仏の眼差しに命を吹き込むような、精緻で神秘的な技術です。
玉眼の構造。仏像の内側から嵌め込む様子は、まるで仮面のよう。
当工房では玉眼の解説動画も公開していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
2025年
8月
16日
土
海を越えて届く祈り — 童型白衣観音(水子供養)

このたび、海外のお客様より水子供養の仏様のご依頼をいただきました。
当工房には、人生の節目や大切な想いを胸に、仏像制作を託してくださる方が多くいらっしゃいます。今回も、深い祈りとともに始まったご縁です。
当初は童地蔵のご希望でしたが、打ち合わせを重ねる中で、白衣観音へと形が定まりました。
優しい笑顔をたたえた童型の観音さま。そのお姿には、静かな慈しみと、柔らかな光が宿っています。

今回使用した木材は、木曽檜。
木目が細かく、香りも豊かで、仏像彫刻において最高級とされる素材です。

まずは荒彫り
叩き鑿(のみ)を使い、木の中から仏様の輪郭を少しずつ浮かび上がらせていきます。
形が見えてくるにつれ、ヒノキの清らかな香りが工房に広がります。

中彫り
全体を大まかに出していきます。

2025年
7月
15日
火
達磨大師像、大権修利菩薩像、開山像、道元像、瑩山像の納品
【茨城県鉾田市に五体の仏像を納入いたしました】
このたび、新築された本堂に向けて、二年前から打ち合わせを重ねてきた五体の仏像を無事に納めることができました。 その様子を紹介します。
最後には工程動画もありますので、どうぞ最後までご覧下さい。
達磨大師像と大権修利菩薩像

開山像、道元像、瑩山像

茨城県鉾田市へ行ってきました。
こちらが新しい本堂、立派です。

木の良い香りがする本堂にて。達磨大師像と大権修利菩薩像は高所に安置します。
曹洞宗寺院では、達磨大師像と大権修利菩薩像と共に祀られることが多いです。
達磨大師像・・・禅宗の開祖
大権修利菩薩像・・・伽藍(がらん)の守護神
それぞれ重要な役割を担っています。
仏像を慎重に組み立てます。
高所の作業の為ご住職、副住職に助力いただきました。
忙しい中、快くお力添えくださり心より感謝申し上げます。
2025年
7月
06日
日
仏師による木彫り虚空蔵菩薩

仏像の木材について
当工房では木目の細かい木曽檜を使用します。色むらもなく質感の良い部分を使います。
年輪の幅が1ミリ以下になる場合が多いです。顔が際立ちます。


続いて、彫刻刀を仕上げ用に持ち替え、細部を丁寧に整えていきます

2025年
6月
30日
月
能登半島地震による仏像の応急処置 修理
令和6年能登半島地震により損傷を受けた数多くの仏像たち。
その尊いお姿を守るため、私は文化財レスキューの一員として現地に赴きました。

崩れ落ちた台座、砕けた光背、傷ついた仏の表情──
ひとつひとつに祈りを込め、丁寧に手を添えながら、再び元の尊厳ある姿へと蘇らせました。
本体の破損
手と胴体足が分離している状態でした。顔も落ちた衝撃で傷がついていました。

台座の破損

組み上げるとこうなります。

光背の破損
2025年
6月
16日
月
木彫りの開山像 曹洞宗
今回は曹洞宗のお寺様からのご依頼になります。当工房はお寺様、個人様も含め幅広くお問い合わせをいただきます。お気軽にご相談下さい。

木彫りの開山像の仕上げです。丁寧に仕上げていきます。

手の周りも綺麗に仕上げていきます。工房見学に来られる方に驚かれるのは全て刃物だけで綺麗にします。紙やすりなどは一切使用しません。
作業様子もYouTubeで公開していますのでよろしければご覧下さい。
手の彫刻
仕上げの様子
2025年
5月
31日
土
5月31日 能登半島地震による仏像の応急処置活動

当工房では国の文化財レスキューによる仏像の応急処置活動をしています。
主に能登半島地震によって破損した仏像になります。

今回は阿弥陀如来立像の応急処置になります。
破損した部分を丁寧に確認し、仏像本体へ負担をかけないよう慎重に補修を進めます。
文化財保存の観点から、一時的な補強でありながらも将来的な本格修復に支障をきたさない方法を選択しました。

光背の破損
虫喰いによって使えない部分もありますが出来る限り元の状態にします。

放射光の棒を差し込みます。穴をあけます。

破損している部分を膠で接着。
ところどころ虫喰いがあるのが心配です。
2025年
5月
30日
金
木彫りの虚空蔵菩薩像 光背

今回は光背の彫刻の説明です。

光背は一枚の板から彫り出します。唐草の透かし彫りと言う技法を使います。

輪郭を出し、内部をくりぬきます。

さらに内部を彫ります。

内部の彫刻です。
2025年
5月
26日
月
職人 工房体験見学
遠くアメリカから、お客様が訪問。
日本文化に深い興味を持ち、熱心に質問をしてくださり、伝統の魅力を語り合うひとときは本当に貴重でした。

仏像彫刻の技法や歴史、どのように現代と融合しているのか、日本の職人の考え方や価値観についてなど、様々な視点から話が盛り上がりました。
実際にお会いできた喜びと、このご縁に心から感謝します。
工房に入ると、広がるのは木の香りと仏像。
ここでしか味わえない空間ですと言っていただけました。
「仏像ってどうやって作るの?」
「職人さんのこだわりって?」
そんな疑問を直接聞いて、文化の奥深さに触れる事が出来た様です。

工房見学は予約制なので、その際はご連絡下さい。
2025年
5月
08日
木
仏像の台座彫刻—蓮台の彫刻
蓮台と蓮弁
今回のご依頼は虚空蔵菩薩像です。その台座となる蓮台についてご紹介します。

蓮台は、蓮の花を模した台座です。蓮の花びらは蓮弁(レンベンと呼ばれ、仏像彫刻では一枚一枚を個別に作る方法と、角材から直接彫り出す方法があります。今回は、一枚ずつ作り、組み立てる手法を採用しました。
蓮弁の組み立て
蓮台は1段につき9枚の蓮弁で構成され、5段あるため合計45枚になります。これらをダボで組み込みながら極力、接着剤は使用せず、将来の修理が可能な仕様にしています。

まず、1段目の蓮弁をダボで固定。

小さいハンマーで叩きます。

続いて、2段目・3段目・4段目と同様の作業を進めます。

2025年
4月
23日
水
虚空蔵菩薩 宝剣の意味

虚空蔵菩薩像の持つ剣は宝剣と言います。(画像 制作中の仏像)
仏教における深い象徴性を持つ重要な要素ですので仏師目線から詳しく説明させていただきます。
宝剣とは
煩悩を断ち切り、智慧を授ける力を象徴しています。

虚空蔵とは
虚空蔵菩薩の「虚空」は広大な宇宙、無限の空間を意味し、「蔵」は蓄え、包み込むことを意味します。
つまり、虚空蔵は広大な宇宙のように無限の知恵と福徳を蓄えを意味します。
虚空蔵菩薩は広大な知恵と福徳を持つ菩薩であり、その右手に握られた宝剣によって煩悩を断ち 智慧を授ける仏像です。
また、宝剣は単なる武器ではなく真理を切り開き、悟りへと導く道具としての役割も果たします。仏教美術 密教の宝剣として有名です。
この剣は、修行者が正しい道を歩むための指針となり、仏法を守る力を表現しています。
虚空蔵菩薩のご利益
学問や記憶力の向上、芸術や音楽の才能を授ける存在としても信仰されており、宝剣はその智慧の象徴として特に重要視されています。この象徴性は、仏教美術や密教の教えにおいても深く根付いています。
仏像についての問い合わせご依頼は気軽にご連絡下さい。
2025年
4月
19日
土
能登半島地震による仏像の応急処置活動—文化財を未来へ


過去に何度か活動報告はしています。今回は接着について説明します。
・接着について
膠(にかわ)を使用
膠は寒すぎると直ぐに寒天のようになり暑いと接着力が落ち、腐りやすくなったりします。気温や湿度によって膠の状態が変化するため、その日の環境に合わせた調整が欠かせません。
その日の気温で膠の馴染み具合をみる。毎回違うので、最適を見つけ調整する。
寒い日は、膠を適切に保温することで作業性を確保し、暑い日は乾燥速度を見極めながら、必要に応じて濃度を調整することで、理想的な接着状態に仕上げることができます。
実際には外での作業もあり理想的な状態で接着が出来ることはほとんどありません。

地震によって破損した仏像。接着したい部分に塗っていきます。塗る量も気温に応じて調整していきます。


2025年
4月
11日
金
仏師が彫り出す木彫りの恵比寿様




荒彫り 序盤
